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きゅうこうじゅうさんじかん

急行十三時間

甲賀 三郎

「新青年」1926(大正15)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,724 字 · 24 页

青空文庫

こう云って頬骨の男は急に思い出したように又南京豆を食べ始めた。

汽車は轟然たる音を発して天竜川の鉄橋を渡った。やがて速度を緩めて浜松駅に這入った。

乗客の或る者は睡そうな眼をとろりと開けた。窓から頭を出して駅名を読もうとしている人もあった。

何を思ったか、探偵がすっくと立って、出口の方へ歩んで行った。彼が出口に辿りついた時分に老翁が又立上って、腰をまげながら出口の方へ向って行った。

二人は中々帰って来なかった。出発の合図が鳴っても姿は見えない。そのうちにそろそろ汽車が動き出した。私は不安でならなかった。

只一人残った頬骨の高い男は窓に頭を当てて、グウグウ寝込んでいる。私は取りつく島がない。不安を押し隠すように上衣をひしと掻き合せた。

汽車がガタンと揺れた拍子に前の男は眼を覚してキョロキョロと四辺を見廻した。

「未だ帰って来ないな」彼は独言のように呟いた。私は素早く機会を捕えた。

「あのお年寄は御友人ですか」

「友人のような、友人でないような」相変ず人を食った爺だ。「まあ友人かな。尤も昨夜から今にかけて、友人になったのだが」

「じゃ前からのお知合じゃないのですか」