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きゅうこうじゅうさんじかん
急行十三時間
甲賀 三郎
「新青年」1926(大正15)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,724 字 · 24 页
彼はこう云いながら、指頭は忙しく例の鑵の中を探っていたが、生憎もう南京豆が残り少くなって、中々撮み出せないのだ。彼はとうとう鑵を斜めにして覗き出した。それから黙っている私をじっと眺めながら、
「君は何か大切なものを持っとりはせんか」と云った。
私は飛上る程驚いた。思わずポケットを上から押えた。
「ははあ、持っとるな。左のポケットの中に、金かな」
私は蒼くなった。ああこの色の黒い頬骨の出張った眼の鋭い男は何者だろう。探偵は何故早く帰って来ないのだろう。
汽車は浜名湖を突破していた。午前三時だ。
「ふん、金を持っとるとすると、中々危険だな。君の対手は容易ならん奴だよ。君はさっきから上衣を一生懸命押えているが、或はもうすり変えられたかも分らんぞ」
得体の知れぬ男は真面目な顔をしながら云った。私は催眠術者の暗示にかかったようにポケットの上から新聞包を撫ぜて見た。所が気の故かしらん、何だか手触りが違うように思えるのだ。私は不安でならなかった。横を向いてそっと取出して見たが、矢張り元のままだったので、ほっと安心して又ポケットに収めた。
「あったかね、だが上包だけでは安心出来んよ。