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きゅうこうじゅうさんじかん

急行十三時間

甲賀 三郎

「新青年」1926(大正15)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,724 字 · 24 页

青空文庫

私はバラバラと束を繰って見た。あっ! やられた、束は上の一枚と一番下の外は巧みに見せかけた西洋紙の反古に過ぎなかった。

私は狼狽した。私の手は無意識に偽紙幣の束を繰っていた。ああ、やられた。私はどこですり変えられたのだろう。

「やられた」私は力なく呟いた。

「えっ、やられた?」私に忌々しい暗示を与えた頬の痩けた男は腰を浮かして低声で叫んだ。その拍子に膝の上の南京豆の鑵がガチャンと床に落ちた。二三人の乗客が私の方を吃驚したように見た。

汽車は再び止まろうとしている。午前三時半だ。

豊橋駅に止ってそれから動き出すまで私はどうして好いやら分らなかった。駅員に訴えようか。そんな事は無効だ。前の男に相談して見ようか。いやいや迂闊な事は出来ない。私は涙ぐんで来た。大阪駅に出迎えている筈の友人の咎めるような残念そうな顔が眼の前に浮んで来た。

前の男を見ると、眼を閉じて何か黙想にでも耽っているような恰好をしている。ああ、私の探偵は一体どうしたのだろうか。腹立しさと口惜しさとで、私は哀れな私自身を思うさま打のめしたくなった。所へ思いがけなく老人が帰って来た。そして、老人が席につくかつかないうちに探偵が姿を現わした。