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きゅうこうじゅうさんじかん

急行十三時間

甲賀 三郎

「新青年」1926(大正15)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,724 字 · 24 页

青空文庫

私は右隣に坐っている私の護衛の私立探偵を盗み見た。彼は踏反り返って、眼を瞑っている。私はしっかり内ポケットを押えた。

一体この二人は何者だろう。

私は始めから窓際に席を取る積りで逸早く車内に飛込んだが、もう前に頬骨の出た男はちゃんと坐っていた。それから私立探偵が私の隣へかけると、白髪の老翁は老人とも思えぬ敏捷さで、その前の空席を取った。之で四人が膝を交えた訳だが前の二人は間もなく会話を始めた。どうも前から知合った間ではないのだ。それに二人とも遠方へ行くにしては一向荷物らしいものを持っていないのだ。気の故だが、老翁の白髪や白髯がどうもくっつけたように思える。私は身内が引締るようだった。

実は私の内ポケットには百円紙幣で一万円と云う大金が這入っているのだ。どうして私のような一介の学生がこんな大金を持っているのか、これには訳がある。

之は大阪にいる私の友人のA――に持って行ってやる金なのだ。友人のA――では分らないが、高利貸のA――と云えば誰知らぬ人はあるまい。友人は彼の一人息子なのだ。高利貸のA――は人も知る通り、代表的の守銭奴だ。貪欲で冷酷で狡猾で、金の為なら人情は切れた草鞋程にも思っていないのだ。