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おんがくどけい
性に眼覚める頃
室生 犀星
室生犀星『性に眼覚める頃』。同一底本的分册已合并为一书。收入:音楽時計、ヒッポドロム。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,495 字 · 22 页
通りから小路へ這入ってくるらしい足音がした。傘をうつ雨脚がだんだんに近づいてきたので、母親がかえってきたことに気がついた。
「唯今、どうもありがとうございました。」
おかみさんは梯子段のところでそう言って、すぐ茶の間へはいった。しばらくすると、れいの時計が鳴り出した。
私は懈い毎日を二階に送っていたが、時々階下へ行っては、おかみさんの洗濯や、買ものに出かけたときに、少しずつ用足しをしていた。
小さい病人は日に日に痩せて、気むずかしくなって、音楽時計のネジばかりかけさしていた。その上、くるしそうにだるい声で、
「あううん、ううん。」
と熱に浮されては唸っていた。風の工合とか、雨の晴れまなぞに、その唸りごえが遠くなったり小さくなったりしていた。その声をきくたびに、私はくらい気持になって、わざと梯子段のそばまで行って耳をすました。
ときには階下へおりると弱々しい声で、なにかぶつぶつ言うのが、いつの間にか分らなくなっていた。もう何も食べないばかりでなく、何時息をひき取るかわからなくなっていた。
「病気がなおったら、僕がいろいろな処へつれて行ってあげますよ。動物園でも上野へでもね。