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あやしのもの

怪しの者

国枝 史郎

「日本伝奇名作全集4 剣侠受難・生死卍巴(他)」番町書房、1970(昭和45)年2月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,259 字 · 25 页

青空文庫

しばらくわたしは土塀について、お屋敷の周囲をまわりました。と、東側の小門から小半町ほど距たった辺に、こんもりした林がありました。それをわたしは眺めやりましたが(あれに任かせて置けば大丈夫さ)と、こう心中で思いまして、そのまま先へ進んで行きました。足場のよいところまでやって来ました。そこでわたしは木立へ登り、そこから土塀の頂へ登り、お屋敷の構内へ飛び下りました。構内の土塀近くに茂っているのは、松や楓や槇や桜の、植え込みでございました。

(塀外の木立ちと高い厚い土塀と、そうして内側のこの植え込みとで、こう厳重に鎧われたんでは、屋敷内で何を企てようと、外からは見えもしなければ聞こえもしない。ましてその上に化け物屋敷などという、気味の悪い噂を立てておいたら、近寄ろうとする人はないだろう。)

そんなことをわたしは思いながら、植え込みをわけて進んで行きました。と行く手から大勢の人声や、物を打つ音や物を切る音やが、潮の遠鳴りのように聞こえ、燈の光なども見えて来ました。不意にその時人声が、此方へ近づいて参りましたので、わたしは藪蔭へ身をかくしました。

「見慣れない奴でありましたよ」