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あやしのもの

怪しの者

国枝 史郎

「日本伝奇名作全集4 剣侠受難・生死卍巴(他)」番町書房、1970(昭和45)年2月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,259 字 · 25 页

青空文庫

「…………」

「隠密ではないかな? どこぞの国の?」

「…………」

「ものは相談じゃ、いや頼みじゃ、同じ身分のものと見かけ、頼む見遁してくれ」

八

「礼には何をくれる」わたしはこう言ってやりました。

「ナニ礼だと、礼がほしいのか?」

「ただで頼まれてたまるものか」

「なるほどな、もっともだ。……かえって話が早くていい。……何がほしい、なんでもやる。」

「調べた秘密をこっちへ吐き出せ」

「…………」

「抑えた材料を当方へ渡せ」

「…………」

「江戸まで連れて逃げようとする生き証拠を俺の手へ返せ」

「チェッ、要求はそれだけか」

「もう一つ残っている」

「まだあるのか、早く言え!」

「汝この場で消えてなくなれ」

「ナ、なんだと?」

「汝に生きていられては都合が悪いと言っているのだ」

疾風迅雷とでも形容しましょうか、怒りと憎悪とで斬り込んで来た、鶴吉の刀の凄じかったことは! あやうく受け流し、わたしは木立ちの中へ駈け込みました。そのわたしを追いかけて来る、鶴吉の姿というものは、さながら豹でしたよ。

(駄目だ)とわたしは観念しました。(俺の手では仕止められない)

松の木を盾として、鶴吉の太刀先を防ぎながら、わたしは大音に呼びました。