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こいのいっぱいうり

恋の一杯売

吉行 エイスケ

「文芸公論」昭和2年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,183 字 · 15 页

青空文庫

いまでは少数の帝政派も日本に駆逐されてしまって新にバイカル湖畔から輸送された泥人形と、コーカサス遺族達によって世間は私に怠惰と、大陸的な新浪漫主義を沁みこましてしまった(将軍BARでさえ農民と職工によって占領されてしまったのだ。)

私は憂愁もなく感動も刺激さえも失われてしまって、写真館と駄菓子を売る街をひたすら歩くのだった。市民は思い出すたびに役にも立たぬ仕事に営々として働いた。思えば彼等は他人を策動することさえ忘れてしまったようだ。地上には無数の長靴と空間には驢馬が犇めいていた。新らしく創設された図書館の書棚はプロレタリアの童話とマルクス学の書簡によって占められていた。またマヤコフスキーとレーニンとピリニヤーク、パステルナックの、新刊書で埋れた。イリヤエレンブルグを人々は狂人だと云っていた。

こうして街は青々と緑に包まれて私は夜毎旗亭ダリコントに馬車で通った。ここで私はロシア煙草と火酒と世界の新聞を読んで一日を暮した。しかし偶然はアンナ・ニコロ、私をみて無意味にわらいだした。

この彼女の可笑さが未来の幾年かを空虚なものにしてしまうのだ。まるで音響のないユダヤ人の才能のように危険なものであった。