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おそろしきさくご
恐ろしき錯誤
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1923(大正12)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,075 字 · 46 页
三年間もつれ添っていながら、女房の心持がハッキリと分らないなんて、――実際、僕はこれまで、女房の心持について考えて見ようなどと、思ったことすらないのだ。夫婦になりさえすれば、女房というものは、亭主を世界中の唯一人として愛するものだと単純に極めて了って、もう何の疑う所もなく、専門の仕事に没頭していたのだった。
だが、今度の事件が僕の目を開いて呉れた。
あとになって考えると、妙子のそぶりに腑に落ちぬ点が多々あった。ああ云う時、ほんとうに夫を愛している女房だったら、あんな風にはしなかったろうという様な、些細な出来事が、それからそれへと思い浮ぶのだった。確かに、妙子は僕という夫に満足していなかったのだ。そして、心ならずも見棄てた所の、昔の恋人の姿を、絶えず心に抱き締めていたのだ。いや、心の上丈ではない。悲しいことだが、彼女のあのふくよかな、暖い胸には、真実その男の『姿』が抱きしめられていたのだった。
僕はさっき、動きのとれぬ証拠物を発見したといった。
その証拠物というのは、見給え、これなんだ。このメダルは、君もよく知っている様に、妙子が娘時代から大切にしていた品だ。