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きょうふのくちぶえ

恐怖の口笛

海野 十三

「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页

青空文庫

「よオし。愚図愚図していないで、その吸血鬼を捉えてやらねばならん」

西一郎は咄嗟に決心を固めた。そして彼は身を起すと、芝草を踏んで、小径の方へ駈けだした。

「こーら、出てこい。人殺し奴、出てこい。……」

彼は阿修羅のようになって、ここの繁み、かしこの藪蔭に躍り入った。彼の上品な洋袴はところどころ裂け、洋杖を握る拳には掻き傷ができて血が流れだしたけれど、一郎はまるでそれを意に留めないように見えた。

公園の東の隅には、元の見附跡らしい背の高い古い石垣が聳えていた。ここはあまりに陰気くさいので、いかに物好きな散歩者たちも近よるものがなかった。一郎は前後の見境もなく、石垣の横手から匍いこんだ。そこには大きな蕗の葉が生え繁っていたが、彼が猛然とその葉の中に躍りこんだとき、思いがけなくグニャリと気味のわるいものを踏みつけた。

「呀ッ――」

と、彼は其の場に三尺ほど飛び上った。

だが彼は、その叫び声に続いて、もう一つの驚きの声を発しなければならなかった。なぜなら、その密生した蕗の葉の中から、イキナリ一人の男が飛びだしたからであった。一郎が踏みつけたのは、その葉かげに寝ていたかの男の脚だったにちがいない。