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きょうふのくちぶえ

恐怖の口笛

海野 十三

「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页

青空文庫

と運転手は青くなって云った。

後には自動車が一台もなかった。だから向うを怪人物が裸身の矢走千鳥を乗せたまま逃げてゆくのを望みながらも、何の追跡する方法もなかった。

「そうだ、電話をかけよう」

事務室に飛びこんだ課長は、まどろこしい郊外電話に癇癪玉を爆発させながら、それでも漸く警察署を呼び出し、自動車取押え方の手配をするとともに、また至急自動車をゴルフ場へ廻すように頼んだ。そして検事の待っている方へ歩いていった。

ジュリアは事務室の中で、急拵えのベッドの上に寝かされていた。枕頭には医学博士蝋山教授が法医学とは勝手ちがいながら何くれとなく世話をしていた。雁金検事は腕を拱いて沈思していたが、課長の入ってくるのを見るなり、

「矢走嬢は見つかったかネ」

と聞いた。課長は一伍一什を報告して、見失ったのを残念がった。

「ジュリアさんは、何か話をしましたか」

と課長の問うのに対し、検事は掻い摘まんで話をした。――ジュリアの話によると、彼女は噴泉を浴びているうちに、隣室の千鳥が只ならぬ悲鳴をあげたので、愕いて隣室へ飛びこんでみると、どこから入ったか、一人の怪漢が千鳥を襲っているので、背後から組みついたところ、忽ち振り倒されて気を失った。