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きょうふのくちぶえ

恐怖の口笛

海野 十三

「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页

青空文庫

そこには次のような文句が認められてあった。

「大江山捜査課長殿

啓。しばらくでしたネ。しばらく会わないうちに、貴下の眼力はすっかり曇ったようだ。日比谷公園の吸血屍体の犯人を痣蟹の仕業とみとめるなどとは何事だ。痣蟹は吸血なんていうケチな殺人はやらない。嘘だと思ったら、今夜十一時、銀座のキャバレー、エトワールへ来たれ。きっと得心のゆくものを見せてやる。必ず来れ!

痣蟹仙斎」

課長は駭いて、手紙を持ってきた刑事を呼びもどした。誰がこのような手紙を持ってきたのかを訊ねたところ、受付に少年が現れてこれを置いていったということが分ったが、探してみてももう使いの少年の行方は知れなかった。だがこれは痣蟹の手懸りになることだから、厳探することを命じた。そしてその奇怪な挑戦状を握って、総監のところへ駈けつけた。

その夜のことである。

銀座随一の豪華版、キャバレー・エトワールは日頃に増してお客が立てこんでいた。客席は全部ふさがってしまったので、已むを得ず、太い柱の陰にはなるが五六ヶ所ほど補助の卓子や椅子を出したが、これも忽ちふさがってしまった。

酒盃のカチ合う音、酔いのまわった紳士の胴間声、それにジャズの喧噪な楽の音が交りただもう頭の中がワンワンいうのであった。