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きょうふのくちぶえ

恐怖の口笛

海野 十三

「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页

青空文庫

きっとこれは、例の吸血鬼にやられたんです。そうに違いありません」

「ナニ、吸血鬼にやられた死骸が発見されたというのか」

「そういえば、先刻暗闇の中で『赤い苺の実』の口笛を吹いていたものがあった……」

人々は驚きのあまり顔を見合せるばかりだった。

果してこれは痣蟹の仕業だろうか。それなれば検察官や覆面探偵はまんまとここまで誘きだされたばかりでなく、吸血の屍体をもって、拭っても拭い切れない侮辱を与えられたわけだった。

自分は吸血鬼でないという痣蟹の宣言が本当か、それとも今夜のこの惨劇が、皮肉な自白なのであろうか。

赤星ジュリアは無事に引きあげたろうか。覆面の名探偵青竜王は雪辱の決意に燃えて、いかなる活躍を始めようとするのか。

そのうちに、どこからともなく、あの「恐怖の口笛」が響いてくるような気配がする。

吸血鬼の正体は、そも何者ぞ!

怪しい図面

大胆不敵の兇賊痣蟹仙斎が隠れ柱の中に逃げこもうとするのを、素早く覆面探偵青竜王がムズと掴えたと思ったが、引張りだしてみると何のこと、痣蟹の左足の長靴と、そして洋服の裂けた一部とだけで痣蟹の身体はそこに見当らなかったではないか。