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きょうふのくちぶえ
恐怖の口笛
海野 十三
「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页
これには痣蟹就縛に大悦びだった雁金検事や大江山捜査課長をはじめ検察官一行は、網の中の大魚を逃がしたように落胆した。
しかし痣蟹はまだそんなに遠くには逃げていない筈だった。総指揮官の雁金検事は逡ろぐ気色もなく直ちに現場附近の捜査を命じたのだった。警官隊はキャバレー・エトワールの屋外と屋内、それから痣蟹の逃げこんだ隠れ柱との三方に分れて、懸命の大捜査を始めたのだった。
「おお、青竜王は何処へいったのか」
と、雁金検事は始めて気がついた様子で左右を見廻わした。
「青竜王?」
検事につきそっていた首脳部の人たちも同じように左右を顧みた。だが彼の姿はどこにも見えなかった。
「さっきまでその辺にいたんだが、見えませんよ」と大江山課長は云った。
「また何処かへとびだしていったんだろう」
「イヤ雁金検事どの」課長は改まった口調で呼びかけた。「貴官はあの青竜王のことをたいへん信用していらっしゃるようですが、私はどうもそれが分りかねるんです」
と、暗に覆面探偵を疑っているらしいような口ぶりを示した。
「はッはッはッ。あの男なら大丈夫だよ」
「そうですかしら。――そう仰有るなら申しますが、さっき暗闇の格闘中のことですが、いくら呼んでも返事をしなかったですよ。