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きょうふのくちぶえ

恐怖の口笛

海野 十三

「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页

青空文庫

口笛はまだ微かに鳴っている。

随分遠まわりをして、彼はやっと口笛のしていた場所へ出ることが出来た。それは悲鳴を聞いてから四五分ほど経ってのちのことだった。

「……?」

さて此処ぞと思う場所に出たことは出たけれど、そこには葉のよく繁った五月躑躅がムクムクと両側に生えているばかりで、小径はいたずらに白く続き、肝腎の人影はどこにも見当らなかった。彼はなんだか夢をみていたのではあるまいかという気がした。

しかし彼は確かに悲鳴を自分の耳底に聞いたのだった。そして悲鳴などは、いまの彼として聞いてはならぬものだった。なぜならこの青年紳士は、先刻から一人の肉親の弟を探しまわっているのであったから。

なぜこの紳士は、弟を探廻らなければならなかったか? それは後に判ることとして、今作者は、この場を語るにもっと急であらねばならないのだ。

彼はすこし気が落ちついたのであろうか、こんどはしっかりした態度に帰って、あたりを熱心に探しだした。ここの繁み、かしこの繁みと探してゆくうちに、とうとう彼は一番こんもりと繁った五月躑躅の蔭に、悲しむべき目的物を探しあてたのだった。それは小径の方に向いてヌッと伸びている靴を履いた一本の足だった。