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きょうふのくちぶえ

恐怖の口笛

海野 十三

「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页

青空文庫

ピストルらしいものがキラリと光った、と思ったら腰がぬけたようだ。どうも極りがわるいけれど……」

「ナニ怪しい奴ですって?」

一郎は勇敢にも扉のところへ出て、暗い戸外を窺った。しかし彼には別に何の怪しい者の姿も映らなかった。教授はきっと何かの幻影をみたのだろうということにして、彼は教授を抱き起して、肩に支えた。

「あッ、冷たい。君の手は濡れているじゃないかい。向うで手を洗ったのかネ」

「いえなに……」

「なぜ手を洗ったんだ。一体何をしていたんだ。法医学教室の神聖を犯すと承知しないよ」

一郎は口だけは達者な教授をしっかり担いで廊下を元の解剖室の方へ歩いていった。

「おや、変だぞ」と一郎は叫んだ。

「なにが変だ」と教授は一郎の胸倉をとったが「うん、これは可笑しい。教室の灯が消えている。君が消したのか」

「いえ、僕じゃありません。僕は消しません。これは変なことだらけだから、静かに行ってみましょう。声を出さんで下さい。いいですか」

二人は静かに戸口に近づいた。そしてじっと真黒な室内を覗きこんだ。二人はもうすこしで、呀ッと声をたてるところだった。誰か分らぬが、解剖台の上を懐中電灯で照らしている者があった。