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きょうふのくちぶえ
恐怖の口笛
海野 十三
「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页
しかしそれは確かに口笛に違いなかった。次第に明瞭になる旋律。ああそれは赤星ジュリアの得意な「赤い苺の実」の旋律――しかしこの場合、なんという恐ろしい口笛であったろう。暗い壁が魔物のように、かの怪しい旋律を伴奏した。……と、突如――まったく突如として、魂切るような悲鳴が地底から響いて来た。
「きゃーッ、う、う、う……」
しかし、それきりだった。悲鳴は一度きりで、再び聞えてこなかった。
戦慄すべき惨劇が、その地底で行われたのだった。その現場へ行ってみよう。
これはまた何という無惨なことだ。――そこはもう行き止りらしい地底の小室だった。一人の男が、虚空をつかんでのけ反るように斃れている。その傍には大きな箱が抛り出してある。蓋を明け放しだ。中から白いものがチラと覗いているが、よく見れば気味の悪い骸骨だった。そしてそのまわりには丸い金貨がキラキラと輝いている。金貨は地面にもバラバラと散乱している。その側には一片のひきちぎれた建築図が落ちている。それは痣蟹の秘蔵の図面に違いなかった。――それ等の凄惨な光景は、一つの懐中電灯でまざまざと照らし出されているのであった。