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あくむ

悪夢

豊島 与志雄

「改造」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,930 字 · 32 页

青空文庫

それは実に変梃な気持だった。恐いもの見たさの気持とも違うし、待ち焦れてじりじりしてる気持とも違うし、何だかこう蜘蛛の糸にでも搦められて、歯をくいしばってるようなものだった。そして私は何故か、また遠い廻り道をした上で、硝子店へ行ってみた。そしてひょっくりその前に出て眺めてみると、喫驚して立止ってしまった。

硝子店の内部は、私が石を投ずる以前の有様と、少しも変ってはいなかった。元通りに品物が並び、元通りの番頭が控え、元通り電燈がともって、やはり煌々とした玻璃宮で、ただ二人連れの客が何か買物をしてるのだけが違っていた。それでは、私の投げた二つの石は中まで達しなかったのだろうか? いやそんな筈はなかった。硝子の破片が飛び散って番頭が立上るのを、私は確かに見届けておいたのである。……そうだ、何もかもすぐに、綺麗に取片付けられてしまったのだ。私が逃出してるうちに、以前通りの有様に飾られてしまったのだ。私は忌々しさと絶望との余りに、暫くつっ立って見つめていた。それから横町を少し引返して、また石を拾おうとした。その動作に自ら気付いた時、急に不安な恐怖を覚え初めた。