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かなしいごかい

悲しい誤解

豊島 与志雄

「女性改造」1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,139 字 · 23 页

青空文庫

政府の方でも人員整理。民間でも人員整理。そしてこの会社でも既にそれに着手しているし、われわれの室では堀田が槍玉にあがることは、暗黙のうちに分っていた。従業員組合というものが出来てはいるが、規約などもいい加減なもので、この会社のような形体では、経営者側に対しては全然無力なのだ。その上先方には、他の姉妹会社へ転任させて苦境に立たせるという手段もある。この職場転換には、一ヶ月ほど前、同僚の原野がすっかり困却した例がある。堀田はいま、職場転換だとうまいことを言った。

だが、彼はこれからどうするつもりなのであろうか。退職金とて、五万かせいぜい十万に過ぎないだろう。そんな金で何が出来るものか。彼には妻と二人の子供がある。財産はないらしい。或は前々から何等かの心算があったのかも知れないが、それとて覚束ないものではあるまいか。すべてが覚束ないのだ。もう書類の整理などを彼は始めているが、その彼を、彼の存在を、横目でちらと眺めてみて、覚束ないと私は感じた。

室全体の雰囲気が、鬱陶しく、そしてもの悲しいのだ。誰の仕業か、窓際の小卓に野菊の一鉢が置いてある。萎れかかった薄紅い花群に、蝿が二つ三つじっととまっている。