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かなしめるこころ

悲しめる心

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,423 字 · 33 页

青空文庫

或る苦痛を感じて死の来るべき事を知った心も我々が思う事は出来ない複雑な物哀れなものである。

厳かな死の手に、かすかに残った生のはげしく争う辛いはかない努力もしず、すなおにスンなりとその手に抱かれた――抱かれる事の出来たのは動かせない幸福な事である。

悲しい死によって美化された幼児の顔はこの上なく尊げなものである。

白蝋の様な頬の色、思い深い紅に閉された小さい唇の上に表れた死の姿は実に不可思議なものに見える。今まじまじと目の前に表れ出た頬のない美くしさ、冷やかさを持って居る死は私の心にまた謎の種をおろして行く。今まで仕様事なしに私の貧しい知識の知れる限りで死の事を考えて居た心に又一つ新らしい考える気持を落して行く。

死に対する新たなるしかも大変強い恐れとその美化する力の大なるために起る不思議な危い魅力とがかたまって一つの私には解けない謎の様なものになって来る。生みの力と絶えず争いつづける死の偉大な意味、その心などは人間にはきっぱり分りきって仕舞うものではあるまい。少くとも今の私には死の意味をさとる――その気持を思う事は出来ないにきまって居る。

出来ないと知りつつも私の今の気持ではそれを思わずには居られない。