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かなしめるこころ

悲しめる心

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,423 字 · 33 页

青空文庫

姉らしい憂いに満ちた優しい気持で、私は先に欲しがって居てやらなかった西京人形と小さな玩具を胸とも思われる所に置いた。

欲しがって居たのにやらなかった、私のその時の行いをどれほど今となって悔いて居るだろう。

けれ共、甲斐のない事になって仕舞ったのである。

小さい飯事道具を一そろいそれも人形のわきに納められた。娘にならずに逝った幼児は大きく育って世に出た時用うべき七輪を「かまど」を「まな板」をその手に取るにふさわしいほどささやかな形にしてはてしもなく長い旅路に持って行く。

五つの髪の厚い乙女が青白い体に友禅の五彩まばゆい晴衣をまとうて眠る胸に同じ様な人形と可愛い飯事道具の置かれた様を思うさえ涙ははてしなくも流れるのである。

飯事を忘れかぬる優しい心根よ。

一人行く旅路の友と人形を抱くしおらしさよ。我妹、雪白の祭壇の上に潔く安置された柩の裡にあどけないすべての微笑も、涙も、喜びも、悲しみも皆納められたのであろうか。永久に? 返る事なく?

只一度の微笑みなり一滴の涙なりを只一度とのこされた姉は希うのである。

思い深く沈んだ夜は私の吐く息、引く息毎に育って糸蝋のかげの我心の奥深くゆらめくのも今日で二夜とはなった。