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おもいで

想い出

佐藤 垢石

「釣りの本」改造社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,792 字 · 8 页

青空文庫

私は竿を河原へ投げ出して、木床の上へうずくまった。

梅雨がくるにはまだ四、五日間がある。空は、からからと晴れている。

うずくまったまま、友釣りの老人の竿さばきを眺めた。一時間ばかりの間に、五、六尾釣りあげて宙抜きに手網で受けるのを見た。技術も上手であるが、鮎も沢山いるらしい。

私は、老人の魚籠を覗いた。老人は囮箱でなく、竹で編んだ魚籠を使っていたのである。大きな籠の中には、四、五十尾の鮎が、生き生きと群れていた。私が毎日釣っている若鮎に比べると、幾倍というほど大きい。十四、五匁から、二十匁近くもあろうと思われる鮎ばかりであった。私は、例えようのない興奮を感じた。

毎年、夏になると私の村の傍らを流れる大利根川の上流で、職業釣り師が勇壮な姿を速瀬の真んなかに躍らせて、友釣りを操っている風景を想いだした。五間もある長竿で、一歩踏み誤れば溺れねばならないほどの奔流へ、胸のあたりまで立ち込む利根川の釣りは楽しみよりも苦しみであろう。こう想像して若鮎釣りだけで満足し、大川の友釣りには手を出さなかった自分であった。

ところが、いま見るこの友釣りは三間か三間半の短い竿で、大きな鮎が掛かっても三、四歩下流へ足を運ぶだけで、宙抜きで手網へ入れている。