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わがじんせいかん

我が人生観

坂口 安吾

04 (四)孤独と好色

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,633 字 · 16 页

青空文庫

抑圧の下では隅ッこのとるにも足らぬ浮気心にすぎないものが、今や彼の意志の全部ぐらいにひろがる。すくなくとも、彼が彼女に一目会いたいと思いたった時には、ただ一目会いたいと思う程度であったが、やがて彼の意志の全部は、彼女との肉慾の遂行に塗りかえられていたのではないかと思われる。

だから、彼は、彼女に会うや、オレはお前を愛していた、あるいは、一しょに死のう、そんなことを、いきなり言ってしまう危険をはげしく感じはじめていた。その反面には、彼女との肉慾の遂行を目指すめざましい意志が、心にひろがる一方である。

こうして彼は、彼女の家へ近づく事ができなくなったばかりでなく、肉慾という想念に疲れ果ててしまった。そして娘を訪ねることを思いとどまって、旅館で休む。まだしも、その時は(午後五六時ごろまでは)相当な抑制力が残っていたからであったろう。

旅館で休むと、娘との肉慾の遂行という願望が、ヒョイと別の女、ただ肉慾の遂行という意慾にかわる。多少の自制心はあるのだ。女将に、女はいないか、とニヤニヤ言いかけてみて、しかし、それ以上にたって言う勇気もない。

むしろ、旅館の戸口をくぐる前に、娘との肉慾の遂行をただの肉慾の遂行におきかえて、それをめざして、旅館をくぐったのではないかと思う。