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〈わがあいするしじんのでんき〉(ほい)

〈我が愛する詩人の伝記〉(補遺)

室生 犀星

「婦人公論 第四十三巻第五号」1958(昭和33)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,167 字 · 22 页

青空文庫

「狂へる歌」「満月の川」「深紅の人」「荒野の娘」「季節の馬車」「華やかな散歩」とかは、その時代かぎりで古びる詩集の名前ではない、「颶風の眼」「情艶詩集」「トランシット」「西蔵美人」その他、一篇の小詩にいたるまで題意からすでに、ことばを選ぶことに才華の余裕を示していた。

佐藤は小説というものが、何とかして書きたかったのだ。これは佐藤の終生のねがいであった。この事を念うたびに私はこの友への暗然たる思いがあった。あれほど沢山の経験を持ち言葉を持ち、異常な感覚の醇度を持った彼は、小説というものを綺麗に一篇ものこさずに死んだのは、よくよくの運がなかったように思われる。若し彼がうまく小説という風のごとき奴に跨って、書き捲っていたら必ず私の二倍くらいの仕事をして、私の二倍くらいの書物を積み上げていたことであろう。私は彼と会っていながら君が小説を書いたらコワイ、小説を書いたらどうだというと、小説は十篇くらいもう書いて佐藤春夫の所にやってあるといった。君は春夫に小説を見せて僕に見せんのかというと、君とは親しすぎて批評も聞きにくいし君もいいとか悪いとかも瞭乎と言えないだろうと思ったから、春夫の所にやって置いたと言った。