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〈わがあいするしじんのでんき〉(ほい)
〈我が愛する詩人の伝記〉(補遺)
室生 犀星
「婦人公論 第四十三巻第五号」1958(昭和33)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,167 字 · 22 页
才華のくずれが美事にここでは当って彼は西條八十と対照される艶歌師佐藤惣之助に早変りの姿を現わしたのである。レコード会社は彼の家に詰めかけ、彼は二階の梯子段から片足踏み下げて呶鳴った。
「三十分待ってくれたまえ、三十分あれば書ける。」
彼は三聯十八行くらいの艶歌を書いて、二階からほら行くぞと原稿紙のままで投げ出した。これが逆に小説で流行児になっていたら、片っ端から一週間位で書きあげていたことであろうと思った。
彼の艶歌は流行り収入は殖え、羽振りは良く小説の事はもうけろりとわすれて、才華のあるだけを短い時間のあいだにひねり出し、それの潰れるのを彼は悔いなかった。バーで一緒に飲んでいると彼の艶歌のレコードがかけられ、彼はキナグサイ顔をして本人の前でああうたわれると、厚顔いささか恥じるねとはいうものの、才華先生は内々それほど恥じてはいなかった。却々うまいじゃないかと私は艶歌師佐藤を悲しげに眺め、内々、こうなっては、もはや、すくえない、佐藤の才華も滅びるの時至ったかと、私は暗然としていた。萩原朔太郎に私は佐藤もいい気になっているが、あれでいいのかいと言うと、妹婿である佐藤に収入が殖えたという点で、萩原は暢気に金が取れればいいじゃないか、佐藤のよい仕事は一段落しているんだから、こんどは金になる原稿を書くだろうと、少し