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〈わがあいするしじんのでんき〉(ほい)
〈我が愛する詩人の伝記〉(補遺)
室生 犀星
「婦人公論 第四十三巻第五号」1958(昭和33)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,167 字 · 22 页
も気にしていないふうであった。萩原や佐藤も原稿と金という問題では、何時もそれらに縁がなかったから、佐藤の艶歌については些かも萩原は忠告がましいことは言わなかった。却って佐藤が金をとることを奨励しているふうがあった位だ。
戦争がはじまり昨日の艶歌師は、たちまち今日の軍歌詩人に早変りをし、あいかわらず二階から二枚相当の原稿紙に軍歌を作成、レコード会社に手交していた。このにがにがしい早変りの役者は、懐中があたたまると酒に勢いを馳って、生涯にない派手な暮しをしていたのである。一種のやけくそのような暴れ方と、金に眼を奪われた軍歌や艶歌の作成は、ようやく才華燦然たる佐藤惣之助を少しずつ忘れさせて行ったのである。
竜
売文幾年
詩人四十なり いかにあるべき
世を蹶つて起ち 闘ひつ
四十にして初めて何ものかを感ず
老怪なる電力の如きものを感ず
この木枯しの月明に
所詮老いたる妻と添寝して朽つべきか
今宵ペンは氷り 紙は雪を展ぐ
文字は雑草の如く生ひ茂り
遂に行き行きてあやめもわかず。
(後略)
終戦後、私はたのまれて山村暮鳥や萩原朔太郎の詩の選詩集出版について、多くの出版書店から相談をうけたが、佐藤惣之助の詩の選集に就ては一冊もたのまれなかったし、それを出版する本屋は一軒もなかった。