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われにそむく

我に叛く

宮本 百合子

「太陽」1921(大正10)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,414 字 · 59 页

青空文庫

「お帰り遊ばせ、どうだって?」

と云った。先刻までの気持に比べれば、何という光彩のない挨拶だろう。暗い、激しい視線が、とかくちらちらと後を向いた良人の頭や肩に注がれるのを、ゆき子は強いて紛らした。

「今朝は間にお合いになったんでしょう?」

「ああ有難う、間に合った。……併し、何しろくたびれた」

靴を脱ぎ終ると、彼は外套をとりとり、大股に玄関の間を通り過た。

「久し振りに乗ると、全く電車はひどいね。参ってしまった。××から立ち通しさ」

「――まあ、そんな?」真木の無感興な原因が推察され、ゆき子は幾分心の和らぐのを感じた。

「余程前から帰っていたの?」

「いいえつい先刻(さっき)。――×町の方へいらっしゃるかと思ったんだけれど……。帰って来てよかったわ。――急にお帰りで皆さんがお驚になったでしょう?」

「ああ、何にしろ思いがけなかったからね、併し」

真木は、窮屈そうに白襯衣(ホワイトシャツ)を脱いだ。

「行って見れば、それほど大したことでもなかったんだね」

「何が?」

「××の用事さ」

「まあ! じゃあ、お帰りにならずとよかったの?」

ゆき子は、思わず良人を見た。

「そんなことはないさ。