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われにそむく
我に叛く
宮本 百合子
「太陽」1921(大正10)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,414 字 · 59 页
けれども、真木が、何と云っても、どう云っても感じない或る一点、そして、彼女はそこを明にしたいばかりに云っている、或る一点に揉み合うと、彼女は泣くほか感情の遣り場がなくなった。これが、自分の唯一人愛している者なのか、という、歯痒(はが)ゆさ、焦立たしさにゆき子は全く自制を失ってしまうのである。
彼等の結婚が、彼等自らの意志で行われたものだけに、斯様な場合の苦しさは、云い難い。ゆき子は、屡々全くの絶望に近づいた。今日も、×町で母と自分との間に交された会話の記憶が、一層彼女を狂暴にさせたのである。単純に絶望させられ、やがて絶交されるものなら、雑作なく解決はつくだろう。併し、ゆき子に真木を見棄てることは、恐らく、自分の眼を抉ることとともに不可能であった。どれほど望を失ったように見え、しんから自分の孤独を感じても、尚、深い切れない絆が彼と自分との間に結ばれていることは明かなのである。
暫くの間泣きしきったゆき子は、やがて彼女の泣きようの余り激しさに愕き不安になり同時に真剣になった良人の言葉や愛撫に、段々心を鎮められた。泣き尽してぼんやりとした頭を良人の腕に凭せかけ、うっとりと熱心な言葉に耳を傾けているうちに、何時かまた甦った愛の誓が、彼女の胸を安める。