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われにそむく

我に叛く

宮本 百合子

「太陽」1921(大正10)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,414 字 · 59 页

青空文庫

軽い夕食を取ると、真木は、

「少し歩いて来よう、寝られないといけないから」

とゆき子を誘った。

彼等は家を出、賑やかな町並とは反対に、小石川台の奥へ入って行った。

勿論、家つづきであった。けれども、人通りがなく、ほんのりと暗い土の路と空との間に、芽ぐむ樹々の芳ばしいしとやかな香を漂わせた小路の散策は、心を和らげた。

ゆき子は、ほんとに心持がよかった。こうして良人に親切にされ、心遣われながら共に在ることは、殆ど官能的に、理窟ない満足で心を浸す。――

歩きながら、先刻の自分の凄じさを思い起すと、彼女は恥た、苦々しい気分にならずにはいられなかった。母などに対して、ゆき子は決してあんな滅茶にはならなかった。云うべきことは云うべきこととして、ちゃんと区画がついている。

「それだのに、真木に対すと、何もかも、可愛さも、悲しさも、一緒くたになって結局埒もないことになってしまうのはどうしたということだろう」

彼女は、そこに恐るべき心的のだらしなさを認めずにはいられなかった。

「それだから、仕事も出来ないのではないか?」ゆき子は闇を貫くように、或る考えに打たれた。

「自分が若し、真木を一番愛しているということで、彼を最もよく知っていることを主張するなら、同じ強硬さで、自分に対して、同様のことを主張し得る筈ではないか? また、彼女