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あるさっかのやくび
或る作家の厄日
豊島 与志雄
「群像」1949(昭和24)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,284 字 · 21 页
」
彼女は衷心から頷いてる様子だ。頸部がへんに筋張っていて、胸は肋骨が太いに違いない、若いくせに乳房がしぼみ、乳首だけが大きいのが、わかる。
「謙虚な気持ちでなければ、物の本当の姿は見て取れないものだ。文学者に最も大切なのは、確実な明晰な眼を持つことだと言われてるだろう。そういう眼を養い育てるには、あらゆる偏見や先入観を捨て去って、全くの謙虚さに自らを置かなければいけないと、僕は思うよ。」
彼女は深く頷いてるらしい。前屈みがちに坐っている。赤っぽく野暮ったい帯のしめ方が、へんにだぶついている。胸の肉が薄いかわりに、腹には贅肉がついていて、臍には黒い垢がたまっているのが、わかる。
「謙虚でさえあれば、化粧とか衣裳とか、ばかなことに心を労することもない。外形の美醜は問題じゃないよ。心の美しいことが第一だ。内心の美、それによって、例えば性慾というようなものも克服出来るさ。」
彼女はちらと眼を挙げておれを見たが、すぐに視線を膝に落した。両膝をきちっとくっつけている。皮膚のかたい両股であり、陰部には、やけにこわい毛が密生してるのが、わかる。
「性慾の対象は、なんといっても、異性にあるし、これがたいていは、暴力的な形を取ることが多い。