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「あるおんな」についてのノート

「或る女」についてのノート

宮本 百合子

「文芸」1936(昭和11)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,281 字 · 13 页

青空文庫

と。是れ実に美しき覚悟なり。余は彼が何処までも彼の面目を失ふことなく、其恋を終始せんとするを見て今更に云ふ可からざる感慨に入らんとするなり。嗚呼彼女の堅き頑なゝる皮殼を破りて中心に入り、彼女が聖愛によりて救はるゝの時来らん事を見るは如何によき事なる可きぞ。余は主の摂理願くば彼と彼女との上に裕かにして、嫉みによりて破られし総てが愛によりて酬はれん事を望むや切なり。……」

後年、有島武郎が客観的に見れば平凡と云い得る女主人公葉子に対して示した作家的傾倒の根源は既に遠い昔に源をもっていることを理解し得るのである。

作者が独立教会からも脱退し、キリスト教信者の生活、習俗に対して深い反撥を感じていた時、「或る女」が着想されたことは私どもにとって興味がある。作者は葉子を環境の犠牲と観た。日清戦争の日本に於けるブルジョア文化の一形態であったキリスト教婦人同盟の主宰者として活躍した葉子の母の、権力を愛し、主我的な生き方に対して自然の皮肉な競争者として現われた娘葉子が、少女時代から特殊な環境の中で驚くべき美貌と才気とを発揮させつつ、いつしか並はずれな生き方をするようになった、その女の苦痛と悲しみを理解しようとしている。