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あるひ

或る日

宮本 百合子

「愛国婦人」1925(大正14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,119 字 · 21 页

青空文庫

誰の胸の奥にでも必ずぽっちりはある感傷癖を誘い出すように聞えるのだ。

まして彼は生れつき其傾向を多分に持ち合わせていた。彼はメランコリックな表情を浮べた。そして、仰向き眼をしぱしぱさせながら何かを考え出した。

やがて、彼は側の小卓子の引き出しから一枚の白紙と鉛筆をとり出した。

さほ子が小一時間の後、手を拭き拭き台所から戻って来ると、彼は黙って其紙片を出して見せた。彼女は莞爾ともしないで眼を通した。彼が新聞に出そうと思った広告の下書きであった。

『女中雇入れたし。家族二人。余暇有。十八歳以上。給。面談。』

広告は幸応えられた。

二日経って広告が掲載されると其朝、さほ子は、間誤付をかくした真面目な顔付で、一人の娘を食事部屋に案内した。

広告を見て来た其娘は、二十前後で、細そりした体つきをしていた。念を入れた化粧をし、メリンス友禅の羽織を着、物を云うとき心持頭を左に曲げながら、何故か苦しそうに匂やかな二つの眉をひそめて声を出すのであった。

少し荒れた赤い小さな唇を見「さようでございますの」と云う含声をきいた時、さほ子は此娘をお前と呼ぶべきなのか、貴女と云うべきなのか、心を苦しめた。