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せんそうはわたしたちからすべてをうばう

戦争はわたしたちからすべてを奪う

宮本 百合子

「現代女性十二講」ナウカ社、1950(昭和25)年12月発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,456 字 · 25 页

青空文庫

現代文学は、肉体文学も、社会小説も、実名小説も、きょうのわれわれの生活のこころにふれるものでないから、というのが一つの動因である。だけれども、明治文学、大正文学、そして昭和をきょうの文学まで辿り直して来る、そのことからだけ、新しい人民の生活を語る文学はうまれない。むしろ、そういう回顧の流行は、それ自体、一つの文学の危機を語る現象でさえある。一九三三年、日本の権力が戦争強行の決意をかためて、言論・思想の自由を奪い、文学を戦争宣伝の方向に利用しようとしはじめた時、プロレタリア文学運動は禁圧された。

プロレタリア文学運動が窒息させられたことは、ただプロレタリア文学運動だけの問題でなくて、文学の本質の一つである人間生活における理性の探求、現実批判の精神を窒息させたことであった。そのために、それまでは、プロレタリア文学運動に対立し、それとたたかうことで自己の存在意義をあらせていた当時の小市民の文学――市民文学――も、自身のうちに発展の可能を見出せなくなって来た。その結果、「不安の文学」という流行がおこり、つづいて「古典を学べ」という流行が生じて、バルザックなど、近代リアリズムの初期の作家が無批判によまれた。