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ししょ

戦国武士道物語 死處

山本 周五郎

山本周五郎『戦国武士道物語 死處』。同一底本的分册已合并为一书。收入:死処、城を守る者。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,176 字 · 33 页

青空文庫

三

一存でございますが、妻を娶る者はわたくし、その当のわたくしがお断わり申しますからには、べっしてうろんはないと存じます」

「よし、たしかに破約承知した」

こえ荒く云って、床板を踏み鳴らすように為元は立った。

「用事と申すのはそれだけか」

「はい」

「出陣のかどでに娘へのよき置き土産ができた。わしの思ったほどおぬしは利巧ではなかったな」

投げつけるような声の下に、通胤はただ低く頭を垂れていた。

三

ほとんど全軍をひっさげて、輝虎が信濃へ進発すると同時に、千坂対馬の名で、――武家にて貯蔵米のあるものは、三日以内に一粒も余さず城中お蔵へ納むべし。違背ある者は屹度申付くべき事。

という触書が廻った。そして、その日から千坂家の者が各屋敷をめぐり、びしびしと督促してすべての貯蔵米を城へ運びこんでしまった。……当時、遠征の軍を送るのに、もっとも重要なものは糧道の確保であった。輜重は軍と共に進むけれども、それで戦の全部がまかなえるわけではない。武具、兵粮、医薬の類はたえずあとから補給しなければならぬ。ことに前にも記した通り、武田家との戦はすでに連続四回にも及び、領内の民たちはかなり疲弊していたから、留守城の武家にある貯蔵米を召上げるのはふしぎではなかった。