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ししょ

戦国武士道物語 死處

山本 周五郎

山本周五郎『戦国武士道物語 死處』。同一底本的分册已合并为一书。收入:死処、城を守る者。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,176 字 · 33 页

青空文庫

一族離反のたくみにかかわるもとい、また尾越どの謀叛とすれば、殿お留守の間が大切、……いずれにしても世間に知れてはならぬゆえ、今日までわし一人の胸にたたんで出来るだけの事をして来た」

「父上……」

「矢代川の荒地を起す必要はなかった。ただ尾越どのの不意討ちがある万一の場合の備えだった。貯蔵米を召しあげたのも、女子供も城中にとどめてあるのも、みなその万一の場合の備えだったのだ」

清胤は低く息をひきながら云った。

「その仔細を話せば、誰も不平を云うものはなかったであろう、……しかし、この理由を云えば御一族のあいだが離反する、家臣の心が動揺する。人心を動揺させず、なお万一に備えるために、つねづね不評なわしが留守をお受けし、専横の名にかくれて、大事を守らねばならなかったのだ」

「父上、……申しわけございません」

通胤は崩れるように庭へ坐り、せきあげる涙と共に云った。

「通胤は愚者でございました。お赦し下さい父上、どうぞお赦し下さいまし」

清胤はじっとわが子のせきあげる声を聞いていた。ながいこと相離れていた父と子の心が、いまこそ紙一重の阻むものもなく、ぴったりと互いに触れあうのを感じた。