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せんじょう
戦場
夢野 久作
「改造」改造社、1936(昭和11)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,769 字 · 51 页
火薬の燃え粕が黒いポツポツとなって沁み込んでいる事もある。……さもなくとも仏軍の弾丸と吾軍の弾丸は先頭の形が違うために傷口の状況が、一目でわかるほど違っている。口径の違うピストルの傷は尚更、明瞭である。塹壕の外に故意と足を投出したり、手を突出したりして受けた負傷と、銃身を構えて前進しながら受けた傷とは三歳児でも区別出来ることを汝等は知らんのか。それ位の自傷がわからなくて軍医がつとまると思うのか。そんな卑怯な、横着な傷に吾儕、軍医が欺むかれて、一々鉄十字勲章と、年金を支給されるように吾々が取計らって行ったならば、国家の前途は果してドウなると思っているのか。常識で考えてもわかる事だ……仮病、詐病、佯狂、そのほか何でも兵隊が自分自身で作り出した肉体の故障ならば、一目でわかるように看護卒の端々までも仕込まれているのだぞ……俺達は……」
「……………」
「……現在……汝等の父母の国は、汝等の父母が描きあらわした偉大な民族性の発展を恐れ憎んでいる全世界の各国から撃滅されむとしつつ在る。学術に、技芸に、経済政策に、模範的の進取精神を輝かして、世界を掠奪せむとしている吾々独逸民族に対して、卑怯、野蛮な全世界の未開民族どもが、あった限りの非人道的な暴力を加えつつ在る。