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せんごぶんしょうろん

戦後文章論

坂口 安吾

「新潮 第四八巻第一〇号」1951(昭和26)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,728 字 · 16 页

青空文庫

れておらなければならない。言葉の職人にとって、一ツ一ツの言葉というものは、風の中の羽のように軽くなければなりませんな。

どうしても、この言葉でなければならん、というのは、そんな極意や秘伝があるのか、と素人が思うだけのことですよ。職人にとっては仕事というものは、この上もない遊びですよ。彼の手中にある言葉は、必然の真理を刺しぬくショウキ様の刀のようなものではなくて、思いのままに飛んだり、消えたり、現れたりする風の中の羽や、野のカゲロウや虹のようなものさ。

言葉にとらわれずに、もっと、もっと、物語にとらわれなさいよ。職人に必要なのは、思いつき、ということです。それは漫画の場合と同じことですよ。ここを、ああして、こうして、という問題のワクがまだ小さいウラミがあります。

要するに、文章が濃すぎると思うのですよ。もっとも、私の言うのは文章だけに目をおいて、言ってるのですがね。

文章の新風としては、今度の芥川賞の候補にのぼった安岡章太郎という人のが甚だ新鮮なものでありました。私は芥川賞に推して、通りませんでしたが、この人は御両所につづく戦後の新風ですね。この人の文章は、山際さんや左文さんのような戦後風景に即しておって、文章としてはたくまずして(実はたくんでいるのでしょうが)おもしろい。