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げさくしゃ

戯作者

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年4月1日春季特別号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,218 字 · 21 页

青空文庫

こう云ったような質実な物へ、努めて世界を求めて行った。これは手錠に懲りたからでもあるが、又馬琴の大才を恐れ、同じ方面で角逐することの、不得策であることを知ったからでもある。

その馬琴はそれから間もなく、蔦屋重三郎に懇望され、京伝の食客から一躍して、耕書堂書店の番頭となったが、これはこの時の代作が稀代の成功を齎したからであった。

「蔦屋へ来て何より嬉しいのは自由に書物が読まれることだ」

馬琴はこう云って喜んだが、それはさすがに書店だけに、耕書堂蔦屋には文庫があり、戦記や物語の古書籍が豊富に貯えられていたからである。馬琴は用事の隙々にそれらの書物を渉猟し、飽無き智慧慾を満足させた。

戯作者としては彼の体が余りに偉大であったので、冗談ではなく誠心から相撲になれと進める者があったが彼は笑って取り合わなかった。その清廉の精神と堂々の風彩を見込まれて、蔦屋の親戚の遊女屋から入婿になるよう望まれたが、馬琴は相手にしなかった。

側眼もふらず戯作道を彼は精進したのである。

曲亭馬琴と署名して「春の花虱の道行」を耕書堂から出版したのは、それから間もなくのことであったが、幸先よくもこの処女作は相当喝采を博したものである。