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てがみ
手紙
久生 十蘭
「小説と読物」1949(昭和24)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,158 字 · 30 页
間もなく月は空へのぼって、静かな海と、まばらに草の生えた、長い砂浜を照らしました。聞えるものは波の音だけで、私の肩に露がおり、キラキラ光る玉をつくりました。はるかに私はたった一人になったことを知りました。
私は村上さんの枕もとにすわって、長い間かかって考えました。村上さんの不機嫌は、なんのためであったのか。椰子の実を枕にして寝てばかりいたのは、なんのためだったのか。アンボンにいたころのことまで、なにもかも、いっぺんにわかりました。村上さんの肺の病気は、もうたいへんに悪く、椰子の実を枕にして、寝ているほかはなかったのであります。私に心配させまいとして、マングローブの汁だといったのは、毎日、そっと海へ吐いていた血のしたたりであったのです。狭い舟の中で、咳の音で私を起すまいとし、どんなに苦しんで血を吐かれたことか。村上さんは気持がイライラとし、生きているうちに濠洲へ着きたいと、あせりあせったのも、みなこの病気のせいであったのであります。
帰りましてから、隊の軍医長に聞きますと、村上さんはアンボンにいるときから病気が悪く、夜、眠れないのも、みなそのためで、どうせ死ぬ命なら、生きているうちに濠洲へ入りこんで、一と仕事したいものだと考えたということであります。