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てがみ
手紙
久生 十蘭
「小説と読物」1949(昭和24)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,158 字 · 30 页
といいますと、たいへん感心されたようでした。
それから一月ほどして、私がスープにする椰子のミルクをとっていますと、村上さんが私のそばへしゃがんで、
「おい四郎、ひとつ、濠洲へ商売に行くかな!」といいました。私はおどろいて、
「隊の通訳のほうは」とたずねますと、
「隊の通訳は、間もなく満期になる。占領されてからでは、うまいことが出来んから、すこし前に潜っているほうがいい。危ないことをしなければ、金は儲からんよ。どうだ、おれといっしょに金儲けをする気はないか」といいました。
プラウの航海にかけては、北濠洲のアルネムランドの土人にかなうものはありません。あのあたりの土人は、コンパスもチャート(海図)もなしで、沿岸看視船の行かぬ、白人の知らない珊瑚礁のあるムズカシい海を、鳥のように自由に飛んであるく。クロコダイル島から四百哩もあるポーダーヴィンまで、たった一人で行きます。私はそれほどでないけれども、ニューギニアから島づたいにトレス海峡を渡って、濠洲へ行くくらいのことはわけはないのであります。
私どもアンボン人は、サムナー法といって、星を見て、夜だけ航海いたすのですが、東南貿易風が西北の反対貿易風にかわる変り目の一ト月と、雨季明けの一ト月は航海しません。