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だきみょうがのせつ
抱茗荷の説
山本 禾太郎
「ぷろふいる」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,330 字 · 34 页
じりじりと後にさがった君子は蝙蝠のように壁に身をつけた。じっと見つめていると真っ暗な闇のなかにしゃぼん玉のような五色の泡がいくつもぷかりぷかりと湧きあがってくるように思った。君子は急いで瞬きをした。そのときである。なにに驚いたのか、忍びこんでいたものは急いで、しかし静かに障子を閉め、来たときとは反対の廊下に去って行った。そのとき君子は遠くの廊下に、やはり忍んで歩いているらしい別の足音を聞いた。
こんなことはその夜が初めてではなかった。すでにこれで三度目である。そして不思議なことには三度とも遠い廊下に聞える別な足音で君子は救われた。君子が母の自殺に疑いを持ち、夢のような記憶をたどって母の死因をたしかめようと志してから、妙に自分の身近に監視の目が光っているように思われるし、自分の命が危険にさらされているような不安さえ感じられる。今夜のようなことが三度もあるのはきっと自分の命を狙っているに違いない。人形の腹から出て来た手紙には、今は、もはや争う必要がなくなりました、この人形は不要になったのです、とある。母を殺したから、もはや争う必要がなく、人形が不要になったというのに違いない。