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おしいれずいひつ
押入れ随筆
吉川 英治
「暮しの手帖」暮しの手帖社、1957(昭和32)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,648 字 · 14 页
暮しの初心
暮しの初心
『おたくでは、シツケがいいとみえて、みなさんお行儀がいいですね』などと、どうかすると、客から、おほめにあずかることがある。ほめられて、ぎょっとするようなものだった。家のキャプテンとしての私は、家族たちへ、シツケなどという意識で、何ひとつ、小やかましいことを日常に強いている覚えはないからである。
だが、考えてみると、シツケでなく、家のシキタリみたいな風は自然なくもない。『お早うございます』と、『おやすみなさい』と、それから間の『行ッてらっしゃい』や、『お帰ンなさい』を、とにかく、家じゅうでやりあっている事だと集約できそうだ。それを少々ていねいにやっている。たとえば、女中さんの『お早うございます』でも、幼稚園へ通っている子の『行ッてまいります』へでも、ウワの空でなく、こちらも同格に、礼をこたえてすることだけは守っている。『それだけのことに過ぎないんです』――と、客の質問に、説明したら、せっかく、ほめてくれたその訪客は、こんどは、意地のわるい推量笑いを顔にたたえた。
『じゃあ、ご主人が酔っぱらって、さきに横になったときでも、奥さんは、枕元で、おやすみなさい、をして寝るんですか』