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おしいれずいひつ
押入れ随筆
吉川 英治
「暮しの手帖」暮しの手帖社、1957(昭和32)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,648 字 · 14 页
ところで、船と家を、比較するのはムリだろうが、日本の一般はまだ、ほんとには、洋式住宅を充分に使っていないと言えるのではないかと思う。応接間にせよ、台所や便所にしても、当然なよごれや古びをきれいにして住む工夫も習慣もないようである。それは、単に不性のせいではない。洋館というものを、依然、むかしの木グチや板目のツヤを誇った日本住宅とおなじに見て、掃除も手入れも、旧態と旧習のまま住んでいるということにほかならない。
だいいち、日本の旧習では、家に塗料をほどこすことを、きらッていた。これは、たくさんな接収住宅が、無知な外人に、滅茶をやられたので、なおさらカンにさわっている。けれど、彼らが日本間にした無知と同様に、日本人は洋間の雨ジミやススには一こう無関心で、手の施しようもない顔で住んでいる。
ところが、じっさいにやろうとすれば、洋間や洋式台所ほど、すぐにもきれいに、生れ変らせ得るものはない。近頃では、ビニール塗料などのような、素人にも用いやすい種々な塗料が出来ていて、いわゆるペンキ塗り作業でも、おもしろいほど、誰にもやれるからである。
ところが、私たちの家庭には、ニス刷毛やペンキ刷毛を持つ習慣がまったくないのだ。