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おしいれずいひつ

押入れ随筆

吉川 英治

「暮しの手帖」暮しの手帖社、1957(昭和32)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,648 字 · 14 页

青空文庫

いい習慣でないと知っているが、今朝もついそれをしているうちに、私はハシをおとしてしまった。

小さな三面記事である。未亡人のガス自殺と、ミダシも小さい。昭和十八年出征以来、三児をかかえて、良人の帰還を待ちぬいていたことし四十四歳の妻が、子供もどうにか成人したので、あきらめの果て、自殺したのである。というだけでなく、年来、復員局では、いくたびも、死亡の公報を出そうとしたのだが、その婦人が、望まないで、未帰還者の名簿にいれてある良人だとも、書いてあった。

この未亡人の心情を思いやるだけでも、なんとなく胸がつかえてしまった。そのうえ、おなじ日の朝刊面には、ハンガリーの難民がまだ三万人も冬を越す所をえないでいるので、日本へひきとって世話をみてくれないかと、国際赤十字から申しいれがあったというニュースも見える。朝のみそ汁も、こういう朝は、つい味もわからぬうちに終ってしまう。たれもが、みなそうではあるまいが、私は、とかく朝のみそ汁に多感になる。みそ汁をたべながら、ふと、胸のいたみやら、よろこびやら、また過去の事、あしたの事など、独り思いに、思いふけってしまうくせがある。