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おしえのきせき
押絵の奇蹟
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页
。
もしそのような場合になりましたら、私はどう致しましょう。この背中から胸へ抜けとおっております恐ろしい疵痕を、私はどうしてお兄様にお眼にかけることが出来ましょう。そうして、それをしも御承知の上で、お構いにならぬとしましても、私はもうその頃から、一生涯治る見込みも御座いませぬ難病に取りつかれている事を、よく存じておりましたのをどう致しましょう。
私はこの病気を隠しとう御座いましたばっかりに、何もかも忘れて、一心に勉強をつづけておりましたのです。ただ気もちばかりで生きておりましたのです。そうしてそんなような気もちを持ちつづけて行きますうちに、いつからともなく、亡くなられました私のお母様が今わの際にお残しになったあの謎のお言葉の、あとの半分の意味をウッカリ悟ってしまっていたので御座います。
「私は不義を致しましたおぼえは毛頭御座いません。けれども……この上のお宮仕えは致しかねます」
とキッパリお父様に仰有った、そのお母様のお言葉の中には、その時のお母様が、やはり私と同じような病気にかかって私と同じような気もちでお仕事に熱中しておいでになった、絶望的なお心持ちが堪えられぬ程痛々しく一パイに籠っていたに違いありませぬ事を、身にしみじみ悟っていたので御座います。