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おしえのきせき
押絵の奇蹟
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页
「それでは見に行こう」
と仰言ったそうです。
それからお芝居が始まりますと、小間物売りのオセキ婆さんを呼んで留守番をさせて、お祖母様とお父様と、お母様と三人お揃いで三日の間瓢楽座へお出でになりましたが、その最初の日には中村半太夫という方が羽織袴を召して、お父様たちの御見物の席に見えて御挨拶をされました。そうして、
「私の舞台姿が福岡で名高い奥様のお手にかかるとは一生の誉れで御座います。何とぞよろしく……」
と仰言って、お祖母様にはお茶器を、お父様にはお煙草盆を、又、お母様には紙入れを、それぞれお土産に下すったそうですが、それにはいずれも私の家の定紋の輪ちがいの模様が金と銀とで入っておりましたので、お父様はビックリなすったそうです。そうして半太夫という方の御人品に大そう感心をされまして「武士ならば千石取りじゃ」と人にお話しになりましたそうです。
けれども、それから四五日目になりますとお父様は、
「俺はもう頭が痛くなりそうじゃ。お母様も最早お倦きになったそうじゃから、俺はお母様と二人で留守番をする。許すからお前はオセキ婆と二人で見て来い。柴忠の折角の頼みじゃから」