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おしえのきせき

押絵の奇蹟

夢野 久作

「新青年」1929(昭和4)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页

青空文庫

もっともお父様はそんな事に就いては黙っておいでになりましたそうですが「三年子なければ去る」という慣わしが福岡にもありましたのに、かんじんのお母様がお家付きで、お父様の方が御養子でおいでになるので、お祖母様は、どうなさる事も出来なかったのでしょう。

それでもお祖母様は、どんなにか初孫の顔を御覧になりたくておいでになったでしょう。

お祖母様は、ですから時々御自分から進んでお母様をお連れになっては、お地蔵様だの、観音様だの、御神木なぞを拝みにお出でになったり、御符や御神水なぞを取り寄せて、お母様にお戴かせになったり、色々とお苦心をなすったそうです。「お前、きょうは観音様の日だよ」とか「明日はお地蔵様の何々だよ」とか仰言っては、月に二三度ずつお母様をお出しになったそうですが、その時はお母様もどんなにお仕事がお忙がしくとも「ハイ」と云ってお出かけになりましたそうです。お父様も朝晩神様や仏様に手をお合わせになるほかに、お祖母様がおすすめになる御符や神水なぞも、すなおにおいただきになりましたそうで、決して迷信なぞとは仰言らなかったそうです。

そんなにして家中が子供を欲しがっておいでになりましたところへ、私というものが出来ましたのですから、そのお喜びはどんなだったでしょう。