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おしえのきせき
押絵の奇蹟
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页
その錦絵の美しかったこと……そうしてその紙と絵の具の匂いの何ともいえずなつかしう御座いましたこと……ちょうど夏になり口で十畳のお座敷のお縁が一パイに明け放してありましたが散り拡がった錦絵の色と香いで、そこいら中が明るくなったように思いました。まずお父様が御覧になった絵を私が見てお母様にお渡しするのでしたが、三人共申し合わせたように溜め息をしては褒め、ほめては溜め息をしておりますうちに、ついお昼の御飯をいただくのを忘れてしまった位でした。
その中には関羽、張飛、玄徳の三枚続きの絵が二三通りありましたが、みんなお母様のお持ちのと違って絵の具が眼の醒めるように美しくて、金や銀の色がピカピカ光っておりました。これをお母様がお作りになったらどんなにか綺麗だろうと思っておりましたが、お母様は案外にも、そんな絵の中から八犬伝の中で犬塚信乃と犬飼現八と捕方三人を描いた五枚続きのをお選り出しになりました。
「私はこれを作って見とう御座います。そうしてこの屋根の瓦と、現八の前垂れを本物のようにして見とう御座います」
とお父様に御相談をなさいました。
お父様もその時に一寸案外という顔をなすったようですが、