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おしえのきせき

押絵の奇蹟

夢野 久作

「新青年」1929(昭和4)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页

青空文庫

もっともその時にもお父様は、何もお気付きにならなかったようでしたが、おおかたそれは、あなたのお父様のお名前がかわっていたせいで御座いましたろう。

「この瓦をどうして本物の通りにするか」

なぞとニコニコして、お母様に尋ねておいでになったように思います。

お母様はその日からその五枚続きの絵を雁皮紙に写し取って、合わせ紙に貼り付けたり切り抜いたりして、お仕事にかかられまして五日目には立派に仕上ったのを楠の一枚板に貼り付けておしまいになりました。

その楠の板は木目が雲のようになっておりまして、その上に芳流閣の金の鯱鉾と青い瓦とが本物のように切りつけられておりました。その金の鯱の前に片膝をついて刀を振り上げている信乃の顔は、お母様が私の眼や鼻をソックリ男のようにお描きになりましたもので、それに向い合って身構えている現八の顔にはお父様の眼と鼻が生き生きと睨みかえっておりました。わけてもその現八の前垂れの美しかったこと……それはスッカリ本物の通りの刺繍をお入れになったので……こればかりで一寸四方いくらの値打ちがある。櫛田神社の絵馬堂に上げても盗まれぬように工夫せねば……と見に来た柴忠さんが云っておられたそうです。