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おしえのきせき
押絵の奇蹟
夢野 久作
「新青年」1929(昭和4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页
それは何とも申しようのない……ただ私一人だけしか気づいておりませぬ不思議な出来事で私は毎晩毎晩それを見るのが、云うに云われぬ一つの秘密の楽しみにさえなって来たので御座いました。何だか存じませぬがそうした事が、みじめにも短かい一生をお送りになったお母様の、人間の世界に対する復讐ではないかとさえ思われて来まして、われと自分のやわらかい、あたたかい頬を押えながらゾーッと致しますことがよくありました。
私は普通の女の子ではない。お母様のこの世に残された思いの固まりなのだ。……この上もなく美しく、又となくむごたらしい目に遭いながら、何も仰有らずにお果てになったお母様のお心が、そのままに私の姿にあらわれているのだ。私はこうしたお母様の怨みが尽きるまで生きておればそれでよいのだ。……ああお母様……私はこうして達者に生きております。……けれども……けれども私はこれからどうしたらいいのでしょうか。……ああお母さん……。というような気持ちを鏡の中の自分の顔に問いかけながら、涙を流したことも度々で御座いました。
そうかと思いますと……お笑いになるかも知れませんけど……そんなにして泣きましたあとで、嬉しいのか悲しいのかわからぬ空っぽのような気もちになりますと、鏡の中の自分の顔をあの唇を噛みしめて刀を振り上げている勇ましい信乃